ソマティック・エクスペリエンシングとは?

本来、「こころ」と「身体」はつながっています。

例えば、悲しい出来事があった時、胸が苦しくなったり、恐怖を感じた時には、身体がギュッと縮み固くなったり、うれしいことがあった時には、身体全体が広がり暖かくなったりということは、私たちが日常の生活の中でよく体験することです。

 

また、これに関連したこととして、ストレスが過度にかかった状態で生活し続けると、身体への症状がでてくることも知られています。腹痛、下痢、便秘、頭痛、身体の痛み、生理不順、不眠、食欲不振等、「心身症」や「自律神経失調症」など、医学的に原因がはっきりとわからない症状に苦しんでいる方たちは、たくさんいます。

 

このように、こころと身体は密接に関係していますので、それぞれを癒していくときに、そのどちらか一方だけに焦点をあてて進めていくことは、本来できないことなのです。

 

「ソマティック・エクスペリエンス」とは、米のピーター・リヴァイン博士が、25年以上もの研究により開発したトラウマセラピーのメソッドであり、こころと身体のつながりを大切にし、人間を「こころ」と「身体」から統合的にみていこうとする考え方である、ソマティック心理学という心理学の流れを汲んでいます。

 

このセラピーは、「手が熱い」「胸のあたりがざわざわする」「手のひらがチクチクする」「背中が重い」…などと表現されるような、フェルトセンスと呼ばれる身体の感覚を使って行っていきます。

 

人間を含む生物は、大きなショックを伴う出来事に出会うと、「逃げる」もしくは「戦う」ために、大量のアドレナリンを体内に放出し、エネルギーを総動員します。しかし私たちは、この二つのどちらも選択できない状況の場合、もう一つの方法である「凍りつき」を選択するのです。「凍りつき」は、この場の苦痛を感じないようにするための大切なメカニズムですが、身体の中にある大量のエネルギーは放出されないまま、余剰エネルギーとして体内に取り残されてしまいます。

 

リヴァイン博士は、この余剰エネルギーがトラウマの症状を作り出していると考えました。皆さんは、インパラなどの捕食動物がトラなどに襲われても逃げ延びることができた時、身体をブルブルと振るわせてから、何事もなかったかのようにまた草原に戻っていく様子を、テレビなどで観たことはありませんか?そうやって体内の余剰エネルギーを放出することができるので、野生動物にトラウマの症状をみることは殆どありません。

しかし、私たち人間は、高度に発達した脳を持っているために、野生動物のようにうまく余剰エネルギーを放出できなくなっているのです。「早く立ち直らなきゃ。」「大丈夫、もう気にしていない。」「泣いてばかりいるのは良くない。」など、理性で解釈しようとしたり、思考的に解決しようとしてしまいます。

 

このセラピーでは、理性や思考といったものではなく、先ほどお話した身体感覚である「フェルトセンス」を使って進めていきます。つまり、何かを分析したり、解釈していくのではなく、もともと誰にでも備わっている身体の叡智を信じ、身体感覚という「言葉」を手がかりに、身体の中に閉じこめられている余剰エネルギーを少しずつ開放していきます。そうすることで、身体の生理は変化していき、結果として思考や感じ方、そして行動にも変化が起きていくのです。

 

リヴァイン博士は、癒しのプロセスは、ゆっくりであればあるほど、小さければちいさいほど効果的であると話しています。劇的な変化や大きすぎるエネルギーを扱うことは、クライアントにとって負担が大きいばかりか、再トラウマを引き起こす危険さえあるからです。

 

忙しい現代社会に暮らす私たちにとっては、身体感覚はなじみの無いものになるかもしれません。セッションでは、その感じ方も練習しながらゆっくり進めていくので、今そのことがピンと来ない方でも大丈夫です。

ゆっくりと安心できる、安全な「場」を作り、本来誰でも持っている癒しの力を引き出し、プロセスに従ってセラピーは進められます。