パーソンセンタード・アプローチとは・・・?

 パーソンセンタード・アプローチは、「カウンセリングの神様」と呼ばれるカール・ロジャーズが、臨床を重ねていく中で、そして彼が自身の人生を歩んでいく中で、確立したものです。ここでは少し、「人間ロジャーズ」にも触れながら、説明していきたいと思います。

 

 ロジャーズは、敬虔なキリスト教徒である、権威的な「抑圧家族」の中で育ちました。「自分」を持つことを許されず、両親の教えのままに生きる幼少期を過ごしたのです。その後、両親から離れ勉強していくうちに、ロジャーズは心理学の世界に目覚め、研究を進めていきます。

そんなロジャーズの心理学のテーマは、ひとが真に「自分自身」として生きること、「自分が“自分”になっていく」ことでした。

 

 「自分が“自分”になっていくこと」…それは、「学生」「夫」「妻」「こども」「会社員」など、役割をこなしているだけの生き方ではなく、自分のこころや身体からの声に耳を傾け、「あぁ、これが私なんだ。」と実感できるような、そんな生き方ができるようになっていくということです。役割だけの生き方をしていると、ひとは自分を見失い、生きているという実感を無くしてしまうことさえあるのです。

 

 しかし、自分を取り戻していくということは、とても困難なことです。そしてそれが、ロジャーズ自身にとってもそうであったからこそ、彼は生涯、そのための理論、方法を考えていったのです。

 ロジャーズの理論、方法は、頭で考えただけで生み出されてきたものではありませんでした。ロジャーズ自身が、自分が人間であるということを、人生を歩んでいく中で大切にしていくようになっていったことが、理論にも影響を与えていきました。そう考えると、ロジャーズが「自分になっていく」という、その人生の歩みそのものから理論が創られていったといっても過言ではないでしょう。

 そのことは、ロジャーズが、児童相談に来た母親との運命的なセラピーで得た考えともつながっています。ロジャーズは、どこに向かえばよいのか、どの問題が重要なのか…など、その答えを知っているのはクライアントであること、セラピストは自分の賢さなどを誇示する必要はなく、クライアントが進んでいくプロセスを信頼することこそが、大切なのだということを、その母親とのセラピーの中で気づいたのです。

 

 さらにロジャーズは、当初セラピーを「クライアントとセラピストという関係性」で捉え、「来談者中心療法」と呼んでいましたが、自分も人間であるということを大切にするようになってからは、「人間と人間との関係性」の中でのセラピーとして、「パーソンセンタード・アプローチ」と呼ぶようになっていきました。

 

 ロジャーズの理論の根本にあるのは、いのちへの信頼です。ロジャーズは、花、草、木、虫、動物など、ありとあらゆる生命体は、自らの可能性を実現するようにできていると言います。いのちあるものには、等しくいのちの働き「実現傾向」があり、条件さへ整えば、自らのいのちを、よりよく生きる方向へ向かうように定められている存在として捉えているのです。

 

 また、ロジャーズは、セラピーの中で変容が生まれるためには、人との関係そのものが持つ、いやしの力が大切であることを強調しています。

 人は、人との関係の中で傷つきます。それを癒していくのは学歴やテクニック、知識、資格などではない、重要なことは、「関係の質」であるとロジャーズは考えました。つまり、クライアントがセラピーの場で、「このセラピストの前では本当に安心できる、いい子を演じなくてもいいんだ、私の感じることを一緒に感じてもらえる・・・。」とクライアントに感じてもらえるような「関係の質」をつくること、それが一番重要であると考えたのです。

 

 クライアントの内的なプロセスと個人の変化する能力への深い信頼を、言語的にも、非言語的にもセラピストは伝えていきます。そこには、テクニックや方法の前提条件もありません。パーソンセタード・アプローチでは、クライアントとセラピストの関係そのものがセラピーなのです。